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岩崎書店
沢田としき 作
 
 

◆おばあちゃんに寄せる想い
子どものころ田舎で過ごした夏休みを思い出します。
「ユキ」がおばあちゃんに寄せる想いと、わたしがおばあちゃんに寄せる想いがあまりにピッタリとしていて驚きました。
それぞれの子どもたちが、離れて住むおじいちゃん、おばあちゃんに寄せる想いはひとつなのかもしれません。
景色に溶け込む声、声と一緒に蘇る姿。

人は死んで土に返るというけれど、今はもういない、たくさんのおじいちゃん、おばあちゃんは、その土地を豊かにする何かになって、土に積もっているのかもしれません。

◆◆ようこ いい子だなあ◆◆
中学校に上がるまでのほとんどの夏休みを長野の田舎で過ごしました。
見渡す限り一面のレタス畑に風が渡って、その遥か向こうを蒼い山々がぐるりと囲んでいる。
これが、わたしの中にある田舎の風景です。
その風景におばあちゃんの声は重なっている。「ようこ、いい子だなぁ、」という優しい声。
おばあちゃんの声は、思い出というよりも風景のひとつとして、折に触れわたしの心に巡ってきます。
ちょっと、しゃがれた声でね。
優しいんだけれど、凛としていた。
初めに声、それから、姿が浮かんできます。

白髪の頭をきゅっとおだんごにして、着物着て、もんぺはいて、白い割ぽう着つけて。
腰が曲がっていて「く」の字より、もっともっと曲がっていて、その曲がった腰に手を当てては、ジャッジャ ジャッジャと庭の砂利踏みしめて、トマトやとんもろこしもぎに行ってた。

わたしと従弟は、庭でアマガエルに催眠術かけて遊んでる。
アマガエルを仰向けにしてお腹をさすると、しばらく動かなくなってね、それを『催眠術』って呼んでいた。
それで、何匹も何匹も催眠術で寝かせたカエルを、庭石の上に転げていると、おばあちゃんが通りすがりに声かける。
「ようこ、楽しいかぁ、」って。
「ようこ、いい子だなぁ、」って、あいさつみたいに声かけて、また、ジャッジャ ジャッジャって畑に行く。

家の外に遊びに行こうとすると、おばあちゃんは必ず寄ってきて、
「ようこ、いい子だで 村のしょ(村の人)に会ったらあいさつしてくれな」って真顔で言う。
わたしは、とりたてていい子になりたいと思ったこともないけれど、おばあちゃんの『いい子だで』には魔法がかかっていて、むくむくっと優しい自分が顔を出す。
根っからの塩尻っ子(?)みたいに、誰かが来ると、「こんにちは」って、ちょこんと頭下げたくなる。
すっごくいい子になった気分。

いよいよ帰るということになると、おばあちゃんは白い割ぽう着のポケットから、ちり紙に包んだおこづかいをくれる。
「かあちゃんには内緒だぞ。ようこ、いい子だなぁ。また、来いよ」って、ちり紙をギュッとわたしの手の中にねじり込む。

決して押し付けでない、独り言みたいな、たくさんの『いい子だなぁ』の声。
風景の一部みたいになって、わたしの心に住みついています。
(2002年7月掲載)




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