◆幼いころに
この小さなくまのぬいぐるみが、真夜中のデパートで繰り広げる冒険を、幼い日の娘たちはクスクス笑いながら何度も楽しんだものです。
わたしたちが目にすることのない真夜中のデパートでなら、コールテンくんが動き出してもちっとも不思議じゃありませんものね。
◆懐かしい赤い表紙
久しぶりにこの絵本をテーブルの上に置いておきましたら、この暖かい赤い表紙に誘われたのか、今ではほとんど絵本を手にすることのなくなった娘たちも、そろそろと絵本を開いていました。
こんなお話だったんだぁ、というのが、再会の感想です。
◆◆アリラ◆◆
娘が生まれて、初めて買ってあげたぬいぐるみは、まっしろい小さなクマの子でした。
どこかの遊園地の売店で買ったのです。
なんて名前にしようか?
ベビーカーに座った彼女にクマの子をみせると、
「アリラ!」
それで、クマの子の名前はアリラになりました。
もっとも1才前、そのころ彼女が発する声は、「リラリラ ラリラ・・・」そんなものでしたけどね。
さて、それからずいぶん長いこと、アリラはどこに行くにも彼女といっしょでした。
彼女のヒステリーに付き合わされて、地面に投げつけられたり、砂場に片足埋められたり、ときにはミルクまでかけられたりしましたが、そのたんびに無事生還。
そればかりか、知らないところに置き忘れられたり、ベビーカーから落っこちたまんま気付いてもらえなかったときにも…、運よく(もしくは自力で?)、
「これ、お嬢ちゃんのじゃないかい?」
なーんて具合に、誰かに拾い上げてもらってきました。
もし、もう少し大きな子どもの家に、欲しい欲しいとねだられて買われていっていたら、クマの子にも、もっと平和な毎日が待っていたかもしれませんけれど…。
アリラは20年近くたった今でも、娘の部屋の棚の上に座っています。
少しホコリがかぶったクマの子は、
「ブンブン振り回されて真っ黒になっていても、いつもいっしょに連れて歩いてもらっていたころがよかったなあ」
娘の背中をみつめながら、ぼんやり考えているのかもしれません。
(2006年2月掲載)
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