◆15年間の手紙
『サンタ・クロースからの手紙』は、トールキンがサンタクロースの名前で、クリスマスが来る度に、自分の息子たちに送った手紙で構成されています。
「作家トールキンからの手紙」であり、
「父親からの手紙」であり、
そしてまぎれもない「サンタクロースからの手紙」なのです。
15通の手紙は15年の実生活の積み重ねを物語ります。
トールキン(サンタクロース)は「さいごのてがみ」をどんな想いで息子たちに送ったのでしょう。
壮大な物語を作りあげた喜びといつくしみ、それ故に一番素晴らしい季節に別れを言わねばならない悲しみ、その全てが伝わってきます。
◆サンタクロースとのお別れ
ここ数年、わたしの娘たちの心の中に生じたサンタクロースへの疑問、いらだち、小さな失望、は母親であるわたしにとっても、淋しいものでした。
けれど、これらの嵐が過ぎ去って、娘は再びサンタクロースはいる、と答えます。
優れた物語が、サンタクロースとは何か、わたしたちに教えてくれたのだと思います。
◆◆娘からのクリスマスプレゼント◆◆
娘からの初めてプレゼントは、石ころにフェルトの耳、毛糸のしっぽをつけた「ねずみくん」でした。
2才だった娘が、保育園で初めて作ったクリスマスプレゼントです。
その頃、わたしたちはアメリカにいてナーサリー(保育園)に、娘も通っていたのです。
ああ、受け持ってくれた先生の姿、はっきりと覚えています。
顔より大きなメガネをかけて、浮き袋を二つ腰に巻いて(うそです)、そのたわわな腰をプルンプルンと振りながら、毎朝ナーサリーの入り口にやってきました。
「おはよう、ゆん!今日はどんな気分なノン?!」唄うように話しかけます。
どんな気分って言ったって、娘はわたしの腰に足をしっかり絡めて、泣き叫んでる。
「バイバイは笑顔でネン!ヨーコの世界が待ってるように、ゆんの仲間も待ってるのヨン。さあ、楽しんできてネン!」
先生は、いかにもアメリカ人らしい口ぶりで、新米ママのわたしを(!)なだめ、わたしの腰に巻きついた娘の手足を、一本ずつ器用にひっぺがすとドアを閉めてしまいます。ああ、可愛そうに、浮き袋二つ巻いた先生の腰に娘の足は巻きつくはずもなく、そっくり返って泣くばかり。
でもね、先生の言ったとおり、やがて娘はわたしにバイバイと手を振って、自ら「ゆんの世界」へ入っていくようになりました。ホッ。
さて、クリスマスが近づいたある日、クラスを終えたわたしが迎えに行くと、先生はいつもの二倍は陽気に、プルプルプルンとやって来て、m
「ヨーコー、今日はゆんからサプライズがあるのヨンヨン!」「ねずみくん」を手渡してくれたのです。可愛いとは言い難い地味な色合いの「ねずみくん」。
その日、晴れやかな気分で娘の手を引き、外に出ると雪でした。
今でも「ねずみくん」を見る度に、新米ママのハラハラ気分や、唄うように語りかけてくれた先生の姿を思い出します。
あの後、ゆんったら、降り積もった雪の駐車場で二回も転んで、わたしはたくさんの荷物抱えて大騒ぎしながら、ゆんを助け起こした、そのときの心の底から愉快だった気分もね。
(2002年12月掲載)
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